あの日あの時あの場所で

ある!ある!忘れられない味~

てんとう虫とオムレツ

行きつけのお店があった。

17歳のくせに。

私は一人でいるのが本当に大好きだった。

でも家で静かにしているのではなくて、一人で映画見たり買い物したり

遠くの図書館行ったりランチしたり、と一匹オオカミの重症なカンジ。

居酒屋にも一人で行くんだからもう手がつけられないね。(時効、時効)

そんなカワイイわたしのお気に入りのお店が「てんとう虫」だ。

思い出すと涙がでてくる。

本当にしょっちゅう行っていて、たぶん3年くらい通った。

地下にあるからすごく暗くてかび臭くて、たまにゴキブリが走るんだけど

ネコが放し飼いにしてあるから大丈夫。

(このネコ、プライド高くてお客からの食べ物は食べない)

わたしが席に座ると奥さんが灰皿をもってきてくれる(時効、時効)

ここのはなんでも美味しいんだけど、オムレツはピカイチだった。

スペイン風オムレツ。

名前がそうだから、スペインのオムレツなんだろうね。

トマトソースの海にオムレツがのってるんだけど、トマトソースは

濃厚じゃなくてサッパリしている感じなの。スープ?

美味しいからお皿にぜったい残さない。

ごはんとともにいただくの。

店内を見回すと、いたるところにてんとう虫がいる。

ランプや、置物や、飾りなどがてんとう虫だった。

夫婦で営んでいるらしく、たまに奥にいるだんなさんが見える。

「おいしかったです。」と言ったことがあるかどうか

覚えていないけど、私が足しげく通いオムレツを注文するのを

「おいしいです」という意味で受け取ってくれるでしょう。

そんな私も大人になり、「てんとう虫」の前を子どもの手を引いて

通り過ぎているうちに「閉店のおしらせ」という紙を見た。

いま思うと、

わたしの青春はあのお店でオムレツを食べている時間だったのだ。

誰の青春も、淡くはかない。二度と戻れない、あの店には。