イクラ丼とスナック勤め
2か月くらいスナックでバイトしたことがある。
すでに働いていたその友達とは中学校の時からの友達で
初々しいあの頃に私たち二人はある約束をしたんだ。
彼女はとても可愛くて、控えめな性格だった。
中学3年生のある日、「イクラって超美味しいよね~」
「ホント、ホント!」
「ねえ、高校生になったらさーバイトして、イクラ丼食べよう!」
「いいねー、食べたーい!約束ね、一緒にイクラ丼食べようね」
それから中学を卒業し、私たちはそれぞれ別々の高校へと進学した。
私は県内でも一番レベルの低い高校へ行った。
彼女は少し頑張って中間ほどの高校へと行ったのだが、すぐに中退。
まもなく夜の街で働くようになり、見た目も持ち物も会話さえも変化した。
私も彼女に誘われてスナックでバイトしたけれど、合わずに辞めた。
彼女とほかほか亭のお弁当食べながら
「そういえばイクラ丼食べに行く約束覚えてる?」
私がおしゃべりのなかでフッと思い出し言う。
「あー、そんな約束したよね。なつかしいー。」と彼女。
イクラ丼の約束は、もう過去のものとなったようだ。
その後数年彼女はスナックで働き、そこで出会ったお客さんと
できちゃった結婚した。
生まれた子供は健常じゃなく、その後もDVに悩まされた彼女。
運命とは、どこでどう道がそれるのか誰にもわからないけれど
大人になって少しわかる。
「ぜったいイクラ丼食べようね、約束!」
彼女との約束は単なる約束だったのか、それともあの頃を忘れない
ための呪文だったのか。